タイトル | 【妄想 Short Story】「聖夜純情」 |
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投稿者 | はっ・チローのムスコ |
投稿日 | 2019年01月17日 |
『【妄想 Short Story】「聖夜純情」』 [ご注意] この物語はフィクションです。 実在の店舗、人物とは、一切関係ありません。 一部、実体験に基づくエピソードが断片的に含まれますが、 物語はすべて筆者の妄想による創作です。 --------------------------------------------------------------- 「聖夜純情」 クリスマス・イブまで、あと1週間というタイミングで、 いつもお世話になっている姫に、会いに行った。 お店は、いわゆる熟女店と呼ばれるピンサロで、 若い娘ばかりの店とは違い、 ゆったりと身を任せられる安心感がある。 この姫に初めて会ったのは、2年前。 自分が遅漏で悩み、風俗店に行っても全く射精できない時期だった。 熟女のテクニックに救いを求め、 藁にもすがる思いで、この店の門を叩いたわけだが、 フリーで付いてくれたこの姫に悩みを打ち明けると、 どこまでもあきらめない丁寧な接客で、 袋小路から助け出してくれた恩人である。 その後、若い「オキニ」ができたせいで、 何か月も御無沙汰してしまうことが続いたが、 それでも、自分のことは覚えていてくれて、 久しぶりに訪ねても、優しく歓迎してくれた。 1年の終わりが近づくこの時期、 今年もお世話になった感謝の気持ちを伝えたかった。 電話で予約し、少し早めに出向いてみると、 幸い待たされずに、いつもの奥まったブースに案内された。 正座して出迎えてくれた姫は、 いつもと変わらず、優しく微笑んで、 自分のハグをこころよく受け入れてくれた。 この姫は、「熟女」と言う言葉から想像される姿とは、 まるで違っている。 非常にスリムな美しいボディラインを保ち、 しみひとつない白いすべすべの肌をしていて、 話し方も、立ち居振る舞いも、とても上品。 全然おばさんっぽくない。 プレイが始まると、いつも通りの手順が淀みなく進む。 自分も、この姫のプレイの流れを心得ているし、 姫もこの客の体の反応をよくわかっているので、 理想的なカーブを描きながら快感が高まっていき、 姫の思惑通りの時間内に、気持ち良くフィニッシュを迎えた。 互いに着衣が済んで、タイムリミットまでの数分間、 穏やかなおしゃべりの中で、翌週のクリスマスの話題になった。 姫は、クリスマス・イブは出勤、その翌日はもともと休みの曜日。 特に普段の週と変わらない生活だと言い、 たまにはコンビニのケーキでも買ってみようかな、などと話していた。 姫のプライベートに関しては、全く知らない。 クリスマス・イブを一緒に過ごす家族がいないのかどうかも、 今の会話から初めて推測するばかりだ。 なんだか、少し、胸の奥が、ちくっと痛んだ。 自分は翌週、別の店の嬢に、まさにコンビニのケーキでも買って、 持っていくつもりでいた。 それも、このビルの別のフロアに。 この姫はどうやら、来週、店が終わってから、 ケーキでも食べて、一人でイブを過ごすらしい。 自分が手土産で差し入れをして、一緒に食べたりすれば、 少しはクリスマスらしい気分になるのかもしれない、と思うと、 心が揺らいだ。 だが、申し訳ないが、やはり自分は、前述の嬢に会いたい。 一緒にケーキを食べて、一緒にイブの時間を過ごしたい。 その嬢が、果たしてそんなことを喜んでくれるかどうかなど、 まるでわからないのだが。 風俗嬢と客の関係は、きわめて脆弱だ。 自分がどんなに会いたくても、 嬢が店をやめてしまえば、もう会えない。 突然やめたり、違う土地の違う店に移ったりするのは、 この業界では日常茶飯事だ。 プライベートで会えるように、連絡先を交換したりするのは、 御法度中の御法度。 プライベートで会って、店に通わなくなったら商売あがったりなので、 当然そのルールは厳しく守らされる。 噂では、嬢が高額の罰金を背負わされるらしい。 嬢も客もわかっているから、そんな危ない真似は決してしない。 だからこそ、会えるうちに、できるだけたくさん会っておきたい。 誕生日や、クリスマスなど、特別な日は特に、 なんとか都合をつけて一緒に過ごしたい。 前述の嬢は、ここにいる姫よりもさらに、 自分に癒しの時間をくれる、大切な存在になっている。 少し後ろめたい気持ちを抱えて、お店をあとにした。 良いお年を、などという挨拶はしなかった。 今年中には、もう来ないつもりだったが、 それを口に出すのが悪いような気がした。 外に出ると、思いのほか、暖かだった。 12月とは思えない気温だ。 やはり異常気象による暖冬なのだろうか。 * * * 昼の仕事が、予想外に長引いて、 お店に出るのが遅れてしまいそうなので、 店長に電話を入れた。 口開けの予約が入っているので、 なるべく早く出勤するように、と言われてしまった。 今日、わたしは、朝から体の調子が思わしくない。 できれば、昼の仕事も、夜の仕事も、休みたかった。 まるで食欲も無くて、一日中、食事らしい食事を摂っていない。 辛うじて、ヨーグルト飲料を口にしただけで、 全然元気が出てこない。 今夜は、クリスマス・イブで、町中が浮かれている。 わたしは、この後も深夜まで仕事。 少しは何か食べないと、最後まで体がもたないと思うので、 あまり食べたくもないのだが、コンビニでサンドイッチを買って、 お店に急いだ。 お店は、風俗街にあるビルの3階。 1階には熟女店のピンサロ。 2階はBARが入っているが、営業しているのを見たことがない。 3階が、わたしが働くピンサロ。 比較的若い女の子が多くて、わたしは結構年上の方だ。 お客さんが出入りする側とは反対側に、従業員用の入口がある。 1階のお姉さんたちが、外でタバコを喫っている脇をすり抜け、 ドアを開けると、よく顔を合わせる、1階の上品でスレンダーな熟女さんが、 こちらに向かって歩いてくるところだった。 互いに軽く会釈してすれ違い、階段を3階まで上がる。 体調が悪い時は、エレベーターがあればいいのに、とつくづく思う。 店長に出勤した旨を告げて待機部屋に入り、ロッカーに荷物を置いて、 仕事用のランジェリー、仕事用のセクシーなドレスに着替える。 たぶん、もう、お客様がお待ちだ。 「おねぇさん、なんか顔色よくないよ。」 最近入った若い女の子が声をかけてくれた。 「うん。 あんまりよくない。」 「だいじょうぶ? 今日、ラストまででしょ?」 「うん。 でも頑張んないと。 店長にも休まないように言われてるし。」 身支度を済ませて、お客様のお茶を作っていると、 「5番で本指名様ね。 60分コース。」 と店長がブースの指示をくれた。 店内のプレイスペースは、待機部屋から来ると、 しばらく目が慣れるまでは真っ暗に感じられる。 転ばないように、ゆっくりとお茶の入ったコップを持って歩いていくと、 見覚えのある顔が、ブースの中に見えた。 彼だけは、たとえ暗くてもすぐにわかる。 自然と顔がほころぶのが、自分でもわかった。 以前は30分、最近は45分が多いのだが、 今日は60分の長いコースにしてくれたようだ。 お待たせしました、と声をかけてお茶を渡すと、 ありがとう、と受け取って一口飲み、ブース内の棚に置いた。 向かい合って座ると、いつものように、しっかりと長いハグをしてくれる。 強く抱きしめてくるが、なぜか優しく、温かい。 腕がゆるんで顔を見合わせると、今度は長めのキス。 ミントの香りがするのも、いつもと同じだ。 「ごめんなさい。 来るのが遅くなってしまって。」 「おつかれさま。 昼間の仕事、忙しかった?」 「うん。 それに、なんか調子わるくて、朝から全然食べてないの。」 「え・・・ 大丈夫かな・・・ 一緒に食べようと思って、コンビニでケーキ買ってきたんだけど。 いきなりこんなの食べたらまずいかな・・・」 「んふふ。 おなかびっくりしちゃうかな。 でも大丈夫。」 「ほんと?」 彼が、セブンイレブンの袋から、小さな白いケーキと、茶色いケーキ、 それに500mlのペットボトル2本を取り出し、ブースの中に並べた。 「白い方がサンタで、茶色い方がトナカイだよ。」 「えぇ~、かわいい~」 「あと、さすがにシャンパン飲むわけにはいかないから、 ぶどうの炭酸飲料買ってきた。」 「ありがとう。 ケーキ、よく買えたね。 売り切れてなくて。」 「今日、会社早く上がってきた。」 確かに、いつも来てくれる時刻よりだいぶ早い。 口開けに来てくれるのは珍しかった。 「どっちがいい?」 「え~、どっちも一緒に食べようよ。」 「うん。 じゃ、先にどっちがいい?」 「じゃ、サンタさん。」 彼が白い方のふたを開けて目の前に置き、 スプーンも袋から出して渡してくれた。 続いて茶色い方もふたを開けて、食べる準備ができるのを待って、 「いただきま~す」 「うん。 いただきます。 ・・・茶色いのは、チョコレート味だ。」 「なんか、顔を崩すのがかわいそう。 後ろから食べるね。」 白い生クリームのサンタのケーキを、後ろ側から半分食べると、 彼が半分食べ終えたトナカイのケーキが前にやってきた。 交換して、互いに残りの半分を食べ終わると、 彼がペットボトルを開けて渡してくれた。 飲んでみると、マスカットの味が爽やかで、おいしかった。 「おいしいね。 ありがとう。」 「うん。 おいしかったね。 ケーキつきあってくれてありがとう。」 ペットボトルのふたを閉じてブースの隅に置き、 再びしっかりと抱き合った。 キスは、マスカットの香りがした。 その後は、いつもと同じように、 まず、わたしがイカされて、 続いて、わたしの口の中でイってもらった。 いつもより、量が多いようだった。 なぜだか、なんとなく、うれしかった。 彼のプライベートな事は、まったく知らない。 電話で予約してくれても、わたしたちは、その名前も教えてもらえない。 陰毛に白いものが混じっているので、 わたしよりもずいぶん年上だと思うのだが、 いつも見事なほどに勃起し、時間はかかっても必ずフィニッシュするので、 案外若いのかもしれない。 くすり指に、リングはしていない。 誕生日や、クリスマス・イブに会いに来てくれるので、 フリーなのかな、とも思うのだが、訊く勇気はない。 ピンサロ嬢とお客さんの関係は、いつも儚い。 会いたいと思っても、お客さんが来なくなってしまえば、 もう会えないのだから。 世の中に、風俗店は山ほどある。 この街にもピンサロだけで20軒近く、 近隣の街も入れたら、相当な数の風俗店があって、 それぞれに何十人も女の子がいる。 若くてかわいい子も多い。 みんなお客さんが来てくれるのを待っている。 彼の気が変わって、よその店に通い始めてしまったら、 もう会えない。 こっそり連絡先を渡したい気持ちもあるのだが、 ばれて罰金を払い続けた女の子を実際に知っているし、 そんな危ない橋は渡れない。 わたしは、このお店で待つしかない。 タイマーが鳴って、我にかえる。 5分前。 60分の長いコースでも、楽しくケーキを食べたりしていたら、 あっという間に過ぎる。 二人とも裸のまま、抱き合ったり、キスをしたり、 残った時間を寄り添って過ごしていたが、もうすぐタイムリミット。 「しゃぁない。 着るか。」 彼がそう言って、着衣を始める。 二人とも、着始めたら動作は素早い。 着衣が済んでから、放送が入るまで、もう一度しっかり抱き合う。 いよいよ終了時刻となって、お見送り。 カーテンのそばで、再会の約束をして、手を振ってさようなら。 ほとんどのお客さんは、そのまま扉を開けて出て行ってしまうのだが、 彼はいつも、扉の手前で振り向いて、 もう一度手を振ってくれる。 わたしもそれを待って、手を振りかえす。 次はいつ会えるのだろうか。 ブースに戻って、ケーキの空き容器などを入れたコンビニの袋と、 お茶のコップと、おしぼりのカゴを回収し、 待機部屋に帰る。 「あれ? おねぇさん、なんかうれしそう。」 出勤した時に声をかけてくれた女の子だ。 「そう?」 「うん。 さっきと全然違うよ。」 「そうかな。」 「今のお客さん、大好きなお兄さんなの?」 「えへへ。」 「へぇ~、そうなんだ。 いいなぁ。 ねぇ、その袋、なぁに?」 「コンビニでケーキ買ってきてくれて、一緒に食べたの。」 「ふぅん。 気が利くね。その人。」 「すっごい優しいよ。 今までのほんとの彼氏より、ずっと大事にしてくれる。」 「すご~い。 いいなぁ。」 気が付けば、体調はすっかり良くなっていた。 人間の体なんて、げんきんなものだ。 気分が上向くだけで、不思議と回復してくる。 「ケーキもらって食べたら、おなか目覚めちゃった。 サンドイッチ食べよ。」 まったく食欲が無かったのが嘘のように、空腹を感じ始めていた。 朝からほとんど食べていない分、一気に取り返そうとしているようだった。 「じゃ、おねぇさん、お先に。」 「え? もうあがるの?」 「あたし、今日は早番だったから。 これから、彼氏とデート。」 「そっか。 いってらっしゃい。」 「はぁい。 失礼しまぁす。」 いそいそと待機部屋を出ていく後姿を見ながら、 サンドイッチの包みを開いた。 今日は、お店は比較的すいている様子だ。 若い女の子が多い分、客層も若いので、 今夜は彼女や若い奥さんと過ごす人が多いのだろう。 その後は、ぽつぽつと、指名のお客さんのお相手をして、 22時半をまわったところで、ぱったりと客足が途絶えた。 店長から、 「今日は暇だから、これであがっていいよ。」 と、声を掛けられた。 この時間なら、終電も終バスも、充分間に合う。 送ってもらわずに済みそうだ。 着替えて、今日の分の精算をして、お店を出た。 1階は、まだたくさんのお姉さんたちがいるようだった。 電車とバスを乗り継いで、自宅近くまで帰ってきたところで、 近所のコンビニに寄った。 明日も朝から出勤なので、朝食を買っておきたかった。 ケーキの棚が目に入ったので近寄ってみると、 サンタのケーキは品切れになっていて、 トナカイのケーキばかり、売れ残っていた。 彼が早めに会社をあがって、両方買っておいてくれたことが、 あらためて、ありがたく感じられた。 いつもの年より、ちょっと幸せなクリスマス・イブになった。 * * * クリスマス・イブの今夜、 お店はいつになく忙しい。 熟女店の客層は、年配の方が多いから、 聖夜と言っても、奥さんと水入らずで過ごすような人は少ないみたい。 ほとんど休憩なしで指名が入ってくれたので、 いつのまにかラストの時刻。 後片付けを終えたら、もうクリスマスの日付に変わっていた。 やっぱり、今夜は来てくれなかった。 先週来てくれたばかりなので、 来ないだろうとは思っていたけれど、 心のどこかで、ちょっとだけ期待してしまった。 ちょっとだけ。 仕方ない。 願うことは、たいがい、叶わない。 そういうもの。 熟女店の私たちがお相手するのは、ほとんどが妻子持ち。 色恋ごとに発展する可能性は、初めから無い。 それでも、定期的に通ってくれる方には、 徐々に情がうつってしまう。 直感的にフィーリングが合う殿方なら、なおさら。 先週来てくれたあの人は、 初めての時から、強く惹かれてしまった。 たぶん、女の直感。 遺伝子的に、惹かれあう間柄に違いない。 抱きしめられた時に、かすかに香る汗が、 なんともいえない安心感と愛しさを醸し出す。 たぶん年令はずいぶん上だろうけれど、 甘える仕草がかわいらしく、 思わず頭を抱いて、胸に押しつけてしまう。 来てほしい。 毎週でも、来てほしい。 以前は、何か月も間が空いたけれど、 最近は、月に一度くらいのペースかな。 でも、もっと来てほしい。 本当に、会うとほっとする。 背中に腕を回してもらうと、 それだけで気持ちいい。 もっと会いたい。 いつも待っているのに。 今夜は、だめだった。 たぶん、次は、来月かな。 残念。 さて、明日は休み。 今夜は、帰ってから、ちょっと呑もうかな。 帰りの車で、家の近くのコンビニでおろしてもらい、 お気に入りのロング缶の甘い酎ハイをカゴに入れ、 店内をぶらぶら。 スイーツの棚には、小さなクリスマスケーキ。 茶色いトナカイのケーキが並んでいる。 ひとつ、買ってみよう。 かわいいな。 おいしそう。 食べるの、楽しみ。 いつもと何も変わらない日常。 でも、世の中がクリスマスで浮かれてくれるから、 今日はトナカイのケーキを売ってるだけ、プラスかな。 帰って、呑んで、ケーキを食べて、 ミルク色の入浴剤のお風呂に入って、 のんびりしよう。 これが私の日常。 これが毎日の暮らし。 何も変わらない。 これがずっと続く。 それでいい。 それで充分。 | |
この風俗コラムへの応援コメント(8件中、最新3件)
- 被ボディーブロー(135)2019/1/26>>はっ・チローのムスコ(192)の『【妄想 Short Story】「聖夜純情」』のコラムお疲れ様です!
読み進めていくうちにどんどんとその世界感にはまり、気持ちが切なく、そして同時にハートフルになって行きました(^-^)上質な物語を読むとその様な感情に包まれます。
熟女店のお姉さんと前述の彼女と主人公が脆弱な細い糸の様な繋がりを大事に心の中にしまいながら、それぞれに思いを馳せ、そして実際にすれ違ったり、ケーキを介して繋がったりして行く様はとても良く構成が出来ていてその手腕に見入りました。
女の子達が実際にそのように思ってくれていたらとても素敵なことだと思い、はっちロー様の想像力と感受性の豊かさに驚かされました。
また、是非物語投稿して下さい。楽しみに待っております(^-^)