タイトル | 姫と女の境界線 |
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投稿者 | オレの地雷を越えてゆけ! |
投稿日 | 2017年07月12日 |
『姫と女の境界線』 彼の結婚生活は短命だった。 娘が喋り出す前に終演を迎えた。 始まりは、社内の大幅刷新が近い頃だろうか。 配置転換や異動、昇格人事。 そんな話題で持ち切りだった。 でも、彼には興味が無さそうだ。 今の置かれた立場で全力を尽くす。 それしか頭にない堅物の様に見えた。 厳し過ぎる事もあったろう。 けれど、周りはよく着いて行った。 結果は数字に現れる。 そして、それを守り通した。 ある日、出勤するとデスクに花が飾られていた。 ある時は綺麗に清掃されていた。 それに対する彼の反応を観察するような、周りからの浮ついた視線が漂っている。 日を置かず、その犯人から申し出があった。 連絡先を教えて下さい、と。 真面目で誠実な姿勢に好感は持っていた。 仕事も一生懸命にこなす。 けれど意外だった。 彼女はアルバイトの大学生。 目立つ存在でもなかった。 火遊びの積もり無いが、恋人と呼ぶには抵抗があった。 しかし、2人は出会いを重ね、夜を共に過ごした。 やがて彼女の体内に命が宿った頃。 異動の通達が彼に知らされる。 前代未聞の大抜擢。 称賛の声と妬みの心。 しかし、そんなものに耳を傾ける余裕は無かった。 激務との戦いの日々が始まる。 予約困難の人気嬢に成長した姫が居る。 彼は幸運だった。 その前に彼女を知り、会うことに困った事がない。 彼女に魅了され、何度も店を訪れながら、 誘うことはしなかった。 齢の差を気にしていたのである。 同じ過ちを繰り返す怖さがあった。 すれ違いの結婚生活。 必死に働くだけ深まる溝。 些細な勘違いは、やがて修復困難に陥る。 娘が掴まり立ちを始めた頃。 彼女は休学から復帰し、卒業証書を手に入れた。 最終学歴は重要だ。 中退と卒業では就職に大きな差が出る。 けれどそれは、迫り来る未来を暗示しているようで、彼には面白くなかった。 そして結局、一回りほど違う感性を理解出来ぬまま、書類に捺印して全てが終わった。 今日は何してるの? 連絡したいけど勇気が出なかった。 予定外に時間の出来た姫が、彼に連絡を取ろうか迷ったらしい。 これには驚いた。 そんな言葉が姫の口から出てくるとは、想像すらしていなかった。 けれど勇気を貰った。 食事に誘い、快諾を得た。 明日会えると思うと緊張する(笑) 前日には、そんな言葉が送られてきた。 すかさず送り返した。 それはこっちの台詞、だと。 当日の姫は積極的だった。 待ち合わせ場所で会うと同時に手を握り、中指と親指で彼の手をさすってくる。 肘にはバストの感触。 照れ臭さと嬉しさと困惑が入り乱れる。 楽しい食事が終わり、行き先が定まらぬまま歩き出す。 帰宅時間も気になる。 そんな胸中を知らぬが如く、姫が口を開く。 収入は確かに大事。 でも、年齢もあるし、 いつまでも風俗は続けられない。 これは、彼に向けての言葉なのか? それとも、彼の知らない、他の彼なのか。 姫の瞳には、誰が映っているのだろう。 不意に大通りへ出ると、左手には駅が見える。 何気なく視線を向けた。 ねぇ、そっちは駅だよ? その言葉の響き。 そして、その意味を理解した気がする。 駅とは反対方向へ足を踏み出す彼に、より深く寄り添う姫。 ここに至って、迷いは無かった。 彼は情熱を注ぎ込み。 姫は歓喜を持って受け入れた。 けれど悩みは尽きない。 再び路上の2人となる頃には、不安な言葉が湧いては消える。 “常連に対するお付き合い” “酔った勢いの気まぐれ” 彼は次回の約束を求め答えを待つが、姫は言葉を発しなかった。 でも、彼は安堵した。 はち切れんばかりの笑顔を魅せる彼女。 それが返事だと分かったから。 【追記】 ご一読ありがとうございます。ちょっと小説風に書いてみました。嘘か真か?過去か現在か? “不問”とさせて頂ければ幸いです。 | |
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